うおーさおー

 両脇を高い建築物に挟まれたごく狭い裏通り――待ち伏せ地点。二本の通りの交差地点で壁を背にして座り込んでいる一理が、深く吐息しつつ周囲を確認する。前後左右それぞれ四箇所、道を塞ぐようにして大きく▼書き込んだ、


 Keep Out!


 その文字が他の認識に作用中――《何かよく解らんがこっちの道は通らんでおこうそうしよう》という思考をごく自然に提供することで、目標以外の人間の侵入を防いでいることを再確認。
 目標は逃走中に“過言症”によって▼書き込まれ、こちらに向かって接近している――はず。一理の右手が小さく動き、後方にある“Keep Out”のひとつを近くに呼び寄せた。罠――“過言症”の書き込みによる《そのまま進め》という認識と、一理の書き込みによる《入ってくるな》という認識を目標の中で衝突させることで、目標の動きを停止させられる――はず。
 どれもこれも実際には試したことのないものばかりで不安要素だらけの布陣――一理もどことなく投げやりに。暇を持て余した右手が、すっかりクセになっている一連の動きを繰り返す――、


 nothing 


 という文字列を枠で囲むように左上から右下へ人差し指をドラッグ――コピー&ペースト――爆発的に増えていく“nothing▼何もない”の群れ。“nothing”の群れは一理の右手に吸い込まれるようにして動き、一理はそれを握りこんだ。右手に装填された無為で視界を覆いつくすための弾幕――不意打ちで他人の認識を喰らい尽くす一理の必殺。


節操無さの見本市でござい(ああこれもなんか誤用くさい)。