コーエン


新作公開でコーエン特集みたいな陳列になっていたので手に取る。役者だけ見てテキトーに三つ選んだ覚えあり。結論:わたし、コーエン、好きです。
■1:二時間で何度fuxxinと聞いたことか。冒頭すぐの床に小便で、ああこれは笑ってるだけでいいものなんだなとわかったのがよかった。ベトナム戦役軍人のイメージってのはどうしてこう、こう。トリホーンにハメられてハメられた後の夢のシーンで爆笑した。デュードが無駄に楽しそうなのがいい。なにあれもう、ひどい。最高。コメディではあれど、バックでは事件が同時に起こって進行し、最終的には何も残らない感じのこの構造もいい。そこだけ切り取っても面白い。でも最後はちょっとダンディズムに頼りすぎな気がします。
■2:離婚訴訟専門の辣腕弁護士マイルス。「婚前契約を利用して富豪の財産をむしりとろうとする悪女」のムカつく生活風景とか、振り回すつもりで振り回されてたマイルスとか、死にかけの年寄りが語る「将来のキャリア」とか、あんだけ長い尺使って聴衆にLOVEを説いたあとの一騒動とか、全部笑えて面白いけど、笑うのと同時に、見ているうちに人間が何のために生きてんのか思い出せなくなるような(こう言ってしまうとえらい大げさではあるが)、不思議な感覚が来る。婚前協約って時点で既にちょっとそうだけど。でも段々と考えるのがアホらしくなっていって、最後にはたいていのものはどうでもよくなる良い作品。後ろ向きになるとか前向きになれるとかでなく、右斜め前に向き直って終われる感じがいい。
■3:No Country for Old Men:最後に見てよかったと思うくらいにびっくりするほどシリアスで暴力的。コメディに交えてたまにはこういうのも撮るらしい。特に感情なく人を殺していくシガーの行動規範を探るあたりに重要なものがあるんだろうが、今は興味ないのでやらない。この作品は殺人者シガーが脱走するシーンから始まる:シガーはほぼ全ての殺しに銃を使っていたが、この冒頭の一番最初の殺しだけは、両手にかけられた手錠を使って監察官の首を締め上げ、長い時間をかけて殺す。無感情で無差別的な殺戮を描くのに必要な条件のひとつはコレだと思う。どれだけ大量に人間を殺していようが、銃だけでしか人を殺せないのと、こういうふうに自分の手で直接殺すことができるのとでは、その殺人者に透けて見える凶悪さが全然違ってくる気がする。この作品は老保安官エドの諦めたような語りのシーンで終わる:昔はよかった:あの時代に生きていた人間がうらやましい:もう死んでるから。